大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和58年(う)12号 判決 1983年9月30日

本店所在地

岡山県御津郡御津町大字草生一〇八四番地

成広建材株式会社

右代表者代表取締役

成廣全通

本籍

岡山県御津郡御津町大字草生一〇八四番地

住居

右同

会社役員

成廣全通

大正一五年五月二〇日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、昭和五七年一二月二三日岡山地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人らから適法な控訴の申立があったので、当裁判所は検察官武内竜雄出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人片山邦宏名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官阿部敏夫名義の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

弁護人の論旨、事実誤認の主張は、要旨、原判決は、被告人会社が、<1>昭和五二年二月一日キャタピラー三菱(株)から新品の九五〇ホイルローダーを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH六五〇一台を、下取価格一七〇万円で同会社に売却したにもかかわらず、これを五〇万円で売却した旨計上して差額一二〇万円の下取売却益を圧縮し、<2>同月八日日立建機(株)から油圧ショベルUH〇七を購入するにあたり、中古の油圧ショベルUH〇六、一台を、下取価格一五〇万円で同会社に売却したにもかかわらず、同会社をして、同会社との間に、現実に関与していない東洋建機(株)が中間者として介在したかのような契約書を作成させるなど経理操作をなさしめ、これを五〇万円で売却した旨計上して差額一〇〇万円の下取売却益を圧縮し、<3>昭和五二年七月一〇日(株)小松製作所から、その代理店松本建機(株)を介して、新品のホイルローダーJH六五CVを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH六五C一台を下取価格四一八万円で代理店松本建機を介して小松製作所に売却したにもかかわらず、これを三四万円で売却した旨計上して差額三八四万円の下取売却益を圧縮し、<4>昭和五三年四月一日(株)小松製作所からその代理店松本建機(株)を介して新品のホイルローダーJH九〇EVを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH九〇Eを下取価格九八〇万円、同じくHD五五〇を下取価格三二〇万円でそれぞれ代理店松本建機を介して、小松製作所に売却したにもかかわらず、前者を一五〇万円で、後者を一三〇万円で売却した旨計上して、差額合計一、〇二〇万円の下取売却益を圧縮した、として、被告人会社に固定資産売却益の除外による犯則の事実を認定したが、右原判決が正当な下取価格と認定した価格は、いずれもその買手方であるメーカーの主張する金額であり、反面、その売手側の被告人会社の主張する下取価格はいずれも不正の金額として排斥している。しかし、右被告会社が主張する下取価格は、被告人成廣全通が、被告人会社備付けの固定資産台帳に記載してある当該中古重機の帳簿価格を担当者より聞き、その価格に近い価格をもって中古重機の下取価格とし、メーカーも異議なくこれに同意したものであること、右各下取に供した重機は、前示<4>のHD五五〇を除いて、被告人成廣において、いずれも使用できる限り使用したもので、スクラップ同然のものであり、その価格は、減価償却した残存価格(帳簿価格)に近いものであったこと、右HD五五〇もその製造年月日の昭和四五年一一月からして、本件下取日まで七年四月余り経過しているので、かなり減価していたと認められること、前示<1>の中古重機JH六五Cについては、その買手方のキャタピラー三菱が、その時価を一〇〇万円と評価しており、原判決認定の一七〇万円より被告人会社主張の価格五〇万円の方が近く、また、同<3><4>で下取の中古重機三台については、その買手方の小松製作所の内部資料である下取車発生通知原票によれば、JH六五Cは二四万円、JH九〇Eは二四〇万円、HD五五〇は九三万円の統一価格を付しており、これとの対比において、原判決認定の右各中古重機の下取価格は甚だしく右統一価格を上廻り、却って、被告人会社主張の価格は、これに近似すること、本件の各取引は、新品重機の売手側メーカーの激しい競争が行なわれ、ひいて、その買手側で、本件中古重機の売手側である被告人会社のペースによって取引が進められた事情にあること、本件で中古重機の買手側メーカーが主張する下取価格は、メーカーにおいて、新品重機の販売価格を低くすることが、他の顧客先への影響や新品重機の価格体系の崩壊、売上額の減少となることから、下取価格を真実の価格より水増して経理の処理をしたものであって、以上の取引の背景事情、個々の取引の経緯を綜合して判断すれば、本件中古重機の下取価格について、被告人会社主張の価格こそが正当であって、原判決の前示認定には事実の誤認があり、判決に影響を及ぼすことは明らかで破棄を免れない、というのである。

よって、本件記録及び原審押収の証拠物を調査し、当審での事実調の結果をも併せ検討するに、先ず、所論<1>のキャタピラー三菱株式会社(以下、キャタピラー三菱という)に対し、被告人会社が売却したホイルローダーJH六五C一台についての原判決認定の価格(一七〇万円)の当否について考えるに、被告人の原審及び当審公判廷での供述によると、新品の重機類を購入する際は、できるだけ安価に入手するため、必らず各メーカーを競合させ、販売を競い合わせて、あらゆる交渉の技術を用いて、価格を最低限度まで下げさせ、その最低の価格が決定した時点で、契約書の作成方を留保し、今度は下取車の売却方を申し入れ、メーカー側が、異議を申し立てると、他のメーカー、特に同機種重機について、常に販売を競い合っている他社の製品を購入するなどの話しを持ち出して、これを牽制し、被告人会社が支払う「追い金」額をできるだけ少なくし、有利になるよう当該メーカーに下取り重機を購入させていたことが認められる。河瀬俊憲の昭和五五年九月三〇日付検面調書、同人の原審での証言によると、メーカー側として、新車の値引きにも限度があり、原判示<1>において、キャタピラー三菱が被告人会社に販売した九五〇ホイルローダーの新車価格一、二〇〇万円は被告人会社にできる限り安くした販売金額で、しかも、右取引の際、被告人会社から買受けた中古のホイルローダーJH六五C一台を、キャタピラー三菱岡山支店が査定した一〇〇万円の下取価格を被告人会社が納得しないため、一七〇万円で買い受け、結局、被告人会社が支払う追い金額は一、〇三〇万円となったことが認められるのであって(昭和五四年五月一五日付広兼幹也の大蔵事務官藤井一成に対する証明書中の同五二年二月一日付請求書(写)、七四六丁)、被告人会社代表者の被告人成廣全通が右の下取条件を受け入れて、右新車購入の注文書を右岡山支店に発行した事実によっても十分裏付けできる(昭和五四年六月一三日付池上義治の前示藤井一成に対する証明書中の同五二年一月二二日付注文書(写)五一七丁)。そして、前示河瀬俊憲の供述及び証言によると、キャタピラー三菱岡山支店は、右の取引の際、被告人会社の経理総括責任者村上寿典から、下取り利益を圧縮する目的の請求書の作成方を依頼されて、同人が要求するとおりに、右の下取車の価格を五〇万円とし、これに前示の追い金額一、〇三〇万円を、計算上、上乗せした一、〇八〇万円を新車価格としたところの右価格について虚偽の請求書を交付した事実が認められるのであって、結局、被告人会社は、前示の新重機を購入するに際し、同時に右下取車を一七〇万円でキャタピラー三菱に売却し、同金額だけ同社に対する追い金額の支払い減縮を得て、実質的に、右一七〇万円の下取車売却の利益を得たことが認められるのであって、右価格が、所論の帳簿操作上の価額とは到底認められない。

次に、所論<2>の日立建機株式会社(以下、日立建機という)に対し、被告人会社が売却した油圧ショベルUH〇六、一台についての原判決認定の価格(一五〇万円)の当否について考えるに、原審証人中嶋浩の証言によると、右日立建機は昭和五二年二月八日に被告人会社に油圧ショベルUH〇七、一台を、出来る限り安くした一、一五〇万円で売却することになり、その際、被告人会社からの下取重機の油圧ショベルUH〇六、一台を査定額一五〇万円で買受けることにし、被告人会社が右新車代金として支払うべき追い金を一、〇〇〇万円として合意できたところ、被告人会社から右の下取車の売価を五〇万円にし、これに右一、〇〇〇万円の追い金額を計算上加算した一、〇五〇万円を新車価格とする契約書の作成方を要求され、右の新車価格では、日立建機が承認できる新車販売の最低限度額を超え、同社内での決裁が、到底通る見込みもないところから、便宜上、他社を右取引の中間に入れ、被告人会社の要求に副うことにして、日立建機が、東洋建機販売株式会社(以下、東洋建機という)の同意を得て、同社に右新重機UH〇七、一台を一、一五〇万円で販売し、その下取として被告人会社の右中古重機UH〇六、一台を一五〇万円で買い受ける旨の契約書を作成し、右東洋建機が被告人会社に右新重機を一台一、〇五〇万円で売却し、右の下取車を一台五〇万円で買受ける旨の右同契約書を作成して、日立建機が被告人会社に右新重機を売却し、右被告人会社から右下取重機を買受けたこと、右東洋建機は、被告人成廣でさえ、全く聞いたこともない会社であって、被告人会社が同会社と右取引の交渉をした事実はなく(被告人の原審供述一八六三丁裏、一八六四丁)、右のように便宜的に契約書を作成して、実質的に日立建機と被告人会社との間に取引を成立させるために利用したに過ぎないこと(前同一八六二丁参照)が認められるのであって、結局、被告人会社は、自己所有の右中古重機を一台一五〇万円で日立建機に下取車として売却し、前示の追い金一、〇〇〇万円を支払って、日立建機から右新重機一台を一、一五〇万円で取得し、実質的に、右一五〇万円の下取車売却の利益を得たことが認められる。

次に、所論<3>の株式会社小松製作所(以下、小松製作所という)に対し、被告人会社が下取車に供したホイルローダーJH六五C一台についての原判決認定の価格(四一八万円)の当否について考えるに、原審証人長谷川実雄、同朽木勝、同松本茂の各証言によると、右重機の取引がなされた昭和五二年当時には、小松製作所としては、小松製重機の販売は、原則として購入者との直接販売を行っていたが、同製作所が同年六月頃小松製新車のペイローダー(ホイルローダー)JH六五CV一台を被告人会社に売却するに際し、右重機の定価一、五〇〇万円位を最低値引き限度額の九八八万円とし、被告人会社から、右同車種の中古重機JH六五C一台を四一八万円で査定のうえ、下取車として引き取り、その差額五七〇万円を追い金とした売買契約を締結しようとしたところ、被告人会社から右下取車の価格を三四万円として、これに右の追い金額五七〇万円を上乗せした六〇四万円を新車価格とする契約書を作成して貰いたい旨の要求を受け、右新車価格を被告人会社の要求するとおりにすることは、小松製作所として、新車価格の信用を損うものであり、到底受入れ難いとして(一七一八丁参照)、同年六月三〇日、ひと先ず右新車を被告人会社に引渡して右下取車を引取り(八四九丁、八六七丁)、同製作所の販売代理店であった松本建機株式会社(以下、松本建機という)を便宜上、販売人にすることにして(八六八丁、一七四七丁裏参照)、右松本建機と密接に連絡をとりながら、結局、同年七月一〇日に右松本建機が被告人会社に対し、右下取重機を三四万円とし、これに前示正規の契約で決定していた追い金額五七〇万円を上乗せした六〇四万円で右新重機を販売する旨の契約書を便宜作成したことが認められるのであって、もとより右新重機が六〇四万円ということなど、正常な取引として、到底考えられない価格であり(一七一八丁、一八〇三丁裏-一八〇四丁)、結局、被告人会社は、自己の要求で、右の契約書を松本建機との間に便宜的に作成し、真実は自己所有の右中古重機を一台四一八万円で下取車として小松製作所に売却し、前示追い金五七〇万円を支払って、同製作所から右新重機を一台九八八万円で取得したことが認められ、右四一八万円の下取車売却の利益を得たことが認められる。

次に、所論<4>の小松製作所に対し、被告人会社が売却したホイルローダーJH九〇E、および同HD五五〇各一台の原判決認定の価格(前車は九八〇万円、後車は三二〇万円)の当否について考えるに、前掲証人長谷川、朽木、松本の各証言によると、小松製作所が、被告人会社に対して、昭和五三年三月三一日頃、新品のホイルローダーJH九〇EV一台を販売するに際し、被告人会社の中古重機ホイルローダーJH九〇E一台を下取に要求する被告人会社との下取価格問題から、右契約当初から、小松製作所の代理店松本建機が、同製作所岡山営業所と緊密な連絡をとりながら被告人会社と接衝し、結局、被告人会社は、右中古重機一台を小松製作所査定価格の九八〇万円(八四六丁)、他に、小松製作所側が、被告人会社の要求する追い金の支払い限度額を受入れるための方便として(一七六九丁裏-一七七〇丁、一七七三丁-一七七四丁、一八一〇丁-一八一一丁)、被告人会社が右松本建機から買入れたカトウHD五五〇のパワーショベル一台を右製作所査定価格の三二〇万円(八四五丁)で、各下取りに出し、前示新重機JH九〇EV一台を安値最低限度価格の一、九〇〇万円で、その追い金額六〇〇万円を支払うことで取得し、右下取重機の販売価格を、被告人会社が一方的に要求したJH九〇E一台については一五〇万円、HD五五〇一台については一三〇万円とする契約書を作成するため、同年四月一日右松本建機を売主とし、右二台の中古重機の売却価格二八〇万円に前示正規の契約で決定された追い金額六〇〇万円を上乗せした八八〇万円を前示新重機JH九〇EV一台の価格とする契約書を作成したことが認められるのであって、真実として、被告人会社は、右松本建機を介して、小松製作所に右二台の中古重機を合計一、三〇〇万円で下取車として売却し、前示の追い金六〇〇万円を支払って、小松製作所から右新重機一台を一、九〇〇万円で取得し、実質的に、右一、三〇〇万円の下取車売却の利益を得たことが認められる。

所論は、被告人会社が主張する各下取車の価格は、被告人会社の固定資産台帳上、減価償却した帳簿価格を基準としたもので、実際上も、使用可能限度まで使い古した右価格相応の重機であった旨主張するが、右帳簿価格とは、建設機械について税制上認められた耐用年数の五年ないし七年の間、年度毎に減価償却した残存価格で、現実の使用や保存状況、中古車市場での需要供給などの要因で生ずる市場価格と異るのであり、個々の当該取引事情によっては、更に右市場価格とも異なる価格が生ずることがありうるのであって、被告人会社の重機等の買受けに際し、頭書認定のごとき、被告人成廣の極めて厳しい値引交渉や、売り手のメーカー側、殊に当時、キャタピラー三菱との間に販売競争を強いられていた小松製作所にとって、被告人会社に対する新重機の売り込みは、「成廣価格」という名の特段の価格で取引されていたこと(一八二八丁)などの諸事情にかんがみれば、所論の下取車の価格が帳簿価格はもとより、時価価格を超えて、メーカー側、特に小松製作所において高価額で買受けられていたものと認められるのであって、原判決認定の本件各下取車の価格が、所論の帳簿価格や統一価格はもとより、時には、時価価格を超えた実際取引の駆引きで生じた特別価格であったことが認められること、他方、メーカー側が、右のように各中古重機の下取価格を所論の帳簿価格より遥かに高額で買入れることを承諾したのに、被告人成廣が、殊更にこれを拒み、わざわざ寡額の帳簿価格位で売却するなど到底考え難いこと、所論の右帳簿価格に各追い金額を上乗せした新重機の価格は、各メーカーの販売責任者らが、いずれも一致して実際取引であり得ない旨供述していること、楢村省三の大蔵事務官藤井一成に対する昭和五四年八月九日付、質問てん末書(一一項-一五項)、同人の検察官に対する同五五年一一月一七日供述調書、村上寿典の同大蔵事務官に対する同年一〇月五日付質問てん末書(六項-九項)、同人の検察官に対する同五五年一一月一九日付供述調書によると、被告人成廣は、従業員の右村上や楢村に対し、中古重機を売ったら売却益が多く出るので、帳簿価格に合わせるように契約書を作ることを指示していたこと(一一五九丁裏、一二七二丁)などによると、所論が正当とする本件各下取重機の販売価格は、同車の販売利益を圧縮するために、被告人会社の帳簿価格ないしは、これに近似させた、いわば、仮装的に作成した契約書上の価格であることが認められる。なお、所論は、本件各下取重機は、いずれもスクラップ同様のもので、到底原判決が認定するような価値を有しなかったとして、その証拠に、当審で照会書・回答書五通を提出するが、被告人成廣は、本件下取重機の取引が終ると、これを買受けた各メーカーに右下取車を引渡す前に、同重機で使用できる部品を、使い古した部品と取り替えていたことが認められるのであって(当審被告人成廣の供述、同原審供述一八四八丁参照)、右メーカーが引渡しを受けた後の右のような本件各重機の時価ないし取引価格が、所論のごとく著しく低価格となったとしても、何ら怪しむに足るものでなく、前示原判決が各下取車の価格についてなした認定の正当性を損うものではない。結局、この点の原判決の事実認定には、何ら所論の事実誤認は認められない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条に則り、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野曽原秀尚 裁判官 萩尾孝至 裁判官 浅田登美)

○控訴趣意書

昭和五八年(ウ)第一二号 法人税法違反事件

被告人 成広建材株式会社

同 成廣全通

昭和五八年二月二三日

被告人両名弁護人

弁護士 片山邦宏

広島高等裁判所岡山支部第一部 御中

一 原判決には事実の誤認があり、その誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかで破棄を免れない。

(一) 原判決は、被告人会社は、

<1> 昭和五二年二月一日キャタピラー三菱(株)から新品の九五〇ホイルローダーを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH六五C一台を、下取価格一七〇万円で同会社に売却したにもかかわらず、これを五〇万円で売却した旨計上して差額一二〇万円の下取売却益を圧縮し、

<2> 同月八日日立建機(株)から油圧ショベルUH〇七を購入するにあたり、中古の油圧ショベルUH〇六一台を、下取価格一五〇万円で同会社に売却したにもかかわらず、同会社をして、同会社と被告人会社との間に、現実に関与していない東洋建機(株)が中間者として介在したかのような契約書を作成させるなど経理操作をなさしめ、これを五〇万円で売却した旨計上して差額一〇〇万円の下取売却益を圧縮し、

<3> 昭和五二年七月一〇日(株)小松製作所から、その代理店松本建機(株)を介して、新品のホイルローダーJH六五CVを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH六五C一台を下取価格四一八万円で代理店松本建機(株)を介して(株)小松製作所に売却したにもかかわらず、これを三四万円で売却した旨計上して差額三八四万円の下取売却益を圧縮し、

<4> 昭和五三年四月一日(株)小松製作所からその代理店松本建機(株)を介して新品のホイルローダーJH九〇EVを購入するにあたり、中古のホイルローダーJH九〇Eを下取価格九八〇万円で、同じくHD五五〇を下取価格三二〇万円でそれぞれ代理店松本建機(株)を介して、(株)小松製作所に売却したにもかかわらず、前者を一五〇万円で、後者を一三〇万円で売却した旨計上して、差額合計一〇二〇万円の下取売却益を圧縮した。

として、被告人会社に固定資産売却益の除外による犯則の事実を認定している。

原判決が前記の中古重機について正当な下取価格として認定している価格は、いずれもその買手方であるメーカーの主張する金額であり、反面その売手側である被告人会社の主張する下取価格はいずれも不正の金額であるとして排斥されている。けれども、次項以下に述べるように、被告人会社の主張する下取価格こそが正当な価格であり、この点に原判決の事実誤認が存在する。

(二) 中古重機の下取価格については、メーカーも被告人会社もともにその主張を裏付ける経理資料を保有しており、又関係者の供述も鋭く対立している。このような場合、そのいずれの主張が正しいかを判断するにあたっては、個々の取引の表面に現われた事情を検討する必要があることは勿論であるが(被告人らは原審の弁論要旨一項(三)で詳述している)、その取引の背景にある事情をも十分に理解する必要がある。原判決は、この点に対する理解が十分でなかったのではないかと思われる。そこで、本件取引の背景にある事情で留意すべき点を指摘する。

<1> 本件取引は、いずれも、新品重機を購入するにあたっての中古重機の下取売却であり、このような取引にあっては新品重機の価格と中古重機の下取価格との差額即ち追金の額をいくらに決めるかということが当事者間の最大の関心事であった(被告人成廣金通や証人中嶋浩・松本茂・朽木勝の各供述)。

中古重機の下取価格は、追金の額に比べると僅少であり、その価格自体も後記のように減価償却済みの残存価格(帳簿価格)に近いものであってみれば、当事者双方にとっては、さほど重視するに値しないものであった。それ故、交渉の結果、追金の額が決まった後、被告人成廣全通が被告人会社備付の固定資産台帳(検察官請求にかかる証拠等関係カード番号一五四………以下「番号一五四」のように表示する)に記載してある当該中古重機の帳簿価格を担当者より聞き、その価格に近い価格をもって中古重機の下取価格としたい旨提案すると、殆んどの場合メーカーも異議なくこれに同意し、下取価格について特に交渉したことはない旨供述している部分は、十分に信用することができるところである。

<2> 本件で問題になっている中古重機自体の価値の面から検討してみると、被告人成廣全通は、(一)項<4>の下取におけるHD五五〇を除いたその余の四台について、いずれも使用できる限り使用して、これ以上修理を加えて使用するよりは新品重機に更新した方が経営上得策であると考えられるところまで使用しており、その中古重機は結局はスクラップにしか利用できないものであって、その価格も減価償却した残存価格(帳簿価格)に近いものであった旨、供述している。被告人会社備付の固定資産台帳(番号一五四)によると、右の四台の中古重機は、いずれも、取得後五年乃至は七年位使用されている。なお、HD五五〇は、(一)項<4>の売買において売買条件を調整する方便として、被告人会社が松本建機(株)より一旦買受けて、即日下取として(株)小松製作所に売却されているので、被告人会社自身は使用していないが、その製造が昭和四五年一一月であり(番号五二のうち下取車発生通知原票参照)、それが下取として売却された昭和五三年四月一日までには七年四月余り経過しているので、かなり減価をしていたものと推測される。因みに、これらの中古重機の法定耐用年数は五年とされている(番号一五四)。参考までに、各中古重機について、被告人会社の取得日・下取として売却された日・帳簿価格・被告人会社主張の下取価格・原判決認定の下取価格を一覧表にして末尾に添付する。

又、(一)項<1>の売買における中古重機JH六五Cについては、その買手側であるキャタピラー三菱(株)自身がその時価を一〇〇万円と評価しており、原判決認定の下取価格一七〇万円には及ばず、被告人会社の主張する下取価格五〇万円の方が近い。更に、(一)項<3><4>の下取売却における三台の中古重機についていえば、その買手側である(株)小松製作所の内部資料である下取車発生通知原票(番号五二のうち)によると、同会社は下取した中古重機について左記のような統一価(製造後の経過年数に応じた中古車の標準的な価格)を付しており、これと原判決が認定した下取価格とを対比してみると、その下取価格が甚しく統一価を上廻っていることが明らかである。他方、統一価と被告人会社が主張する下取価格とを対比してみると、かなり近似しているといえる。

(一)項の売買 中古重機 統一価(万円) 原判決が認定した下取価格(万円) 被告人会社主張の下取価格(万円)

<3> JH六五C 二四 四一八 三四

<4> JH九〇E 二四〇 九八〇 一五〇

<4> HD五五〇 九三 三二〇 一三〇

なお、証人松本茂及び被告人成廣全通の各供述によっても、(一)項<3><4>の売買において下取された中古重機の時価は、原判決が認定した下取価格より遥かに低額であったことが認められる。因みに、この点について、原判決は、統一価について、機種ごとに製造後の経過年数に応じて割出した中古重機の一応の目安価格に過ぎず、実際の売買にあっては、その時点の市場価格等を斟酌して査定員が評価する査定額が下取価格の基準となるもので、しかも前記各下取車発生通知原票によると、右査定額と原判決の認定した下取価格とは一致していると述べている。けれども、本件の査定額と統一価との間には多大の差額があり過ぎること、及びメーカーの主張する下取価格と査定額とが全部一致していることからみて、後記のような事情から計上されたメーカーの主張する下取価格に逆に一致するように査定額が作為的に記載されたものと考えられる。

以上述べたように、被告人会社の主張する各中古重機の下取価格はその価値に照らして妥当なものであり、反面原判決の認定した下取価格はその価値に照らして妥当さを欠くものといわなければならない。

<3> 被告人会社は、常時五〇台近い重機を保有し、絶えずその更新のために買替える大口需用家であってみれば、新品重機の売手側であるメーカーにとって重要な顧客先であり、そこに厳しい売込み、したがって中古重機の下取競争が行われることは自然の流れといわなければならない。具体的には、ホイルローダーに関してはキャタピラー三菱(株)と(株)小松製作所とが((一)項<1><3><4>の売買の場合)、油圧ショベルに関しては日立建機(株)とユタニ重工(株)とが((一)項<2>の売買の場合)、厳しい売込み、したがって下取競争を展開していた。このように競争が激しければ、勢い追金の額が少なくなることも当然である。殊に、従前使用されていた重機を他社の重機をもって更新する場合((一)項<2>の売買の場合)には、一層その傾向が強まることになる。そこには、新品重機の買手であり、同時に中古重機の売手である被告人会社の要求がより多く通る、いわば被告人会社のペースで売買契約が締結されることになる。このことは、被告人成廣全通や証人松本茂・中嶋浩等の供述から十分に裏付けられるところである。

(三) 以上述べたように、<1>本件取引においては、売買の当事者は、追金の額の決定に重点を置き、下取価格については附随的なこととしてさして関心を持っていなかったこと、<2>被告人会社の主張する下取価格は中古重機の価値に照らして妥当なものであり、反面原判決の認定した下取価格はその価値に照らして妥当さを欠くものであること、<3>本件取引が全体として被告人会社のペースで進められていたこと、等の取引の背景にある事情と、個々の取引の経緯(原審における弁論要旨一項(三)参照)とを総合して判断するとき、中古重機の下取価格については、被告人会社の主張する価格こそ正当であり、メーカーの主張する価格は不正なものというべきである。少なくとも、メーカーの主張する下取価格が正当なものであるとの認定は、到底なしえないところである。

なお、中古重機の買手側であるメーカーの主張する下取価格については、次のように考えられる。

即ち、新品重機の激しい売込み競争の結果、被告人会社のペースで売買契約が締結されたが、追金の額が少ないため、それに真実の下取価格を加算して得られる新品重機の販売価格は当然に低くなり、それでは他の顧客先への影響や新品重機の価格体系が崩れること、或いは売上額が減少すること等が懸念される。そこで、新品重機の売手側であるメーカー自身の対内的・対外的配慮から、追金の額は修正できないので、下取価格を真実の価格より水増(増額)した経理資料を作成したうえ、それによって経理処理した下取価格を主張していたものと考えられる。このことは、それらの経理資料が新品重機の売手側であるメーカーの手中にのみ存在し、被告人会社の手中に存在しないことを考え併せると、よりよく理解できるところである。殊に、(株)小松製作所との取引である(一)項<3><4>の取引については、上記のことが明瞭に現われているといえる。

二 原判決の刑の量定は重過ぎて不当である。

仮に、前述の事実誤認の主張が採用されず、原判決の判示事実が認められるとしても、原判決の刑の量定は重過ぎると考える。

即ち、各事業年度における所得の犯則金額は、初年度が三九、九九九、一三四円、次年度が三〇、七〇七、三〇七円であるところ、そのうちには被告人会社が法人税の確定申告を行った後に、遡って青色申告の承認が取消されたため(法人税法第一二七条)、青色申告承認の特典である機械等の特別償却(租税特別措置法第四五条の二)が否認されたために生じた部分が含まれている。その額は、初年度で一五、〇四四、〇〇〇円、次年度で一四、〇九八、六八九円である。それは初年度の犯則金額の約三八%、次年度の犯則金額の約四六%に相当する。これらの部分については、被告人会社には積極的に法人税を逋脱しようという意思はなかったものであり、ただ後に青色申告の承認が取消されたために、結果的に犯則金額に含まれるに至ったものである。

又、所得の犯則金額のうち「雑収入」の除外による犯則金額のうち受取保険料の除外による部分(初年度で六四万円、次年度で一〇〇〇万円)は、被告人成廣全通の供述にあるように被告人会社で発生した労災死亡事故により受領したものであるが、被告人会社の収入金として経理処理することがその金員の性質上情において忍び難く、被災者の慰霊のために使うつもりで所持していたものである。そこには、積極的に法人税を逋脱しようとする意思はなく、正規の経理方法をとらなかったために、結果的に犯則金額とされたものである。

上述のような情状を考慮するとき、被告人会社に対し罰金六〇〇万円、被告人成廣全通に対し懲役八月・執行猶予二年とする原判決は、いささか重過ぎると考える。

一覧表

<省略>

(注) 製造年月日である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例